雪の結晶(2)

先日借りた本たち
○雪/小林禎作著/北海道新聞社/1980年
○スノーフレーク/ケネス・リブレクト著/山と渓谷社/2006年

 ハンコをつくろうと思っているうちに、本の貸し出し期限がきてしまいました。(石のハンコで「雪の結晶」をつくろうとしております。)延長しなくては。
 1冊目「」は、大学の研究者が書いた真面目な学術書で、歴史や文化といった比較的とっつきやすい所から科学的な実証まで、小さな文字と、最小限の図版でまとめたもの。基本モノクロ。
 墨の3号は、読書はほとんどしません。この本を借りたのは、わずかな図版の中に興味を魅くものがあったから。
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 むかしむかし、日本という国に、雪が大好きな殿様がおったとさ。
 ある日殿様は、物知りと評判の賢者を城に招いて、「雪の粒には何種類の形があるんじゃ?」と、聞いたとか聞かないとか。
 困った賢者は「どうぞいましばらく。わたくしがかならずやお調べして参ります」と雪粒探索に出かけていったとさ。
 あっちで雪が降ったと聞けばあっちの里へ。
 賢者はきれいな雪が降ると評判の山という山をたずね歩き、すぐに溶ける氷のかたちを震える小筆で必死に書き留めた。
 時には凍え死にしそうな極寒にも何とか耐えて、いく月年か過ぎ、春が来てまた冬が来て、文箱も、押し入れも、賢者の家は雪粒の絵をしたためた紙の束でいっぱいになってしまった。
 そうこうして、いつのまにか、台所のたたきの1帖ほどで寝起きするしかないくらい家中に紙があふれた。乾いた墨の香りで家中がいぶされて、毎日筆をにぎる賢者の指にいたっては、水浴びしても爪の間から墨が香る始末。
 ひとたび風が吹けばこれまでの苦労が水の泡。心配した近所の者が訪ねてきても、風のある日は絶対に戸板を開かない。だんだんと、訪ねてくるものもいなくなった。
 真夏の夜でも夢には雪が降ってくる。勉強好きの賢者もここにいたってはもう降参、とばかりに、ようやく見本帖をまとめて殿様に献上するはこびとなった。
 さてさて、見本帖を手にした殿様は大喜び。賢者をたたえて山ほどの褒美をとらせたうえ、職人に命じて写本をつくらせた。そうして、雪の結晶は広く世の中に知られていった。
 その本にまず飛びついたのは家臣達。殿様の気にいるようにと、見本帖の図版をまねて、美しい漆に金の雪模様のが入った印籠を献上したり、家紋を雪の結晶にしたりして、雪の模様は城内から城下にいたるまで、すっかり浸透していったとさ。
 そして城下でも雪の模様は大流行。反物職人たちは腕をきそって新しい雪の結晶模様を次々編み出し、その反物は売れに売れたとか……めでたしめでたし。
(以上はすべてイメージです。紹介した著作とはほんの少ししか関係ありません。)
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 本には、当時のスケッチや着物の図柄集、印籠の図版などが載っています。少し古い書籍なので、興味のある方は図書館で探してみて下さい。
 中でも興味を魅かれたのは、印刷=木版だった時代の「雪の結晶集」をまとめるにあたり、無数の雪の結晶の「木製ハンコ」がつくられて、殿様が代々、大切にしていたらしいこと。
 4代にわたって研究をつづけた殿様の家系も没落し、戦争を経て、今や行方知れずのハンコ達。ばらばらになっても、日本のどこかに、きっと大事に持っている人達がいると信じたい。
 人は死んで時代が流れても、それに関わった人たちの思いが、モノと一緒に伝え残りますように……。人がモノをつくる意味ってなんだろう……。
 って、考えるのも大事なんだけど、何してたんだっけ?

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